言葉と思考・観たもの感じたもの🎹🌼🌿🌷🐦✨

演劇・映画・音楽を観た感想を書いてます。日記のような思考の記録もあります。

演劇「バイオ・グラフィ:プレイ(1984)」



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撮影:奥田隼平

 

バイオグラフィ=伝記

プレイ=演じる、遊び

 

観て体が体感したあの時間をどう言葉にすれば良いだろう。すごく愛おしい時間だった。

とてもとてもとてもとても素晴らしい公演で。愛しい時間でした。

 

○人生をもう一度やり直すことが出来る。ただし、変えられるのは自分の行動だけ。行動科学の学者・教授であるハンネス・キュアマンは、彼の二番目の妻となるアントワネット・シュタインと出会った日を選んでもう一度やり直すことを試みる。アントワネット、演出家、アシスタントの二人とともに。果たして、何度も人生をやり直す中で彼は望むものを手にすることは出来たのか。人生を変えることは出来たのか。

 

今の知識、知能を使ってしかやり直すことは出来ない。という言葉が心に刺さった。やり直しても、今の自分で生きるしかなくて懸命に今と向き合うことしか出来ないということは変わらないのだ。やっぱり懸命に、今を生きるしかないのだと思った。

 

 

キュアマン

この約2時間40分の中で、どれだけ変化しただろうかというすごい変化を遂げていたのがキュアマンだった。7年前に戻って、繰り返しながら時を重ねて、また戻り…演出家のサポートと指示を受けながらキュアマンは真剣に真摯に自分の人生に向き合っていた。そしてやっぱりアントワネットに対する想いだけは失くすことは出来ないみたいだ。

 

自分にとって失くすことができないことが、そのひとの核なのかもしれないと思った。 

 

沖渡さん演じるキュアマンが、年を人生を重ねていっているのに。7年前に戻ってくると、瑞々しく初々しさもある最初の7年前のキュアマンになっていて。それでいて、冒頭とは違う何度もやり直して重ねてきたものを持っていて。それが本当にアメイジングだった!

 

 


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撮影:奥田隼平

 

三橋さん、横田さん。アシスタントの二人が、キュアマンの人生に登場する重要な人物たちを次々と演じていく。匠で巧み。職人だった。

 

キュアマンの少年時代の同級生。キュアマンの父親。家政婦のフバレフさん、キュアマンかかかる医者のおじいちゃん先生。医者の若いしっかりした先生。看護師のアグネス。看護婦長。家政婦のピーナ。御学友。警察、刑事の方。アントワネットを愛するもうひとりの人物エゴン。パーティーにやって来た友人たち。

 

 

どの人物もどこかチャーミングで人間らしくて、三橋さんの人間への愛情ある視点を感じた。アグネスと婦長が好き。観るほどに大好きになっていく。始まりと最後のシーンとなる部分のキュアマンの伝記を読む役割を女性アシスタントが担っていて、それがとてもとても凜として素敵だった。三橋さんが空間に紡ぎ出す言葉が私はとても好きなのです。

 

男性アシスタントは、キュアマンの人生に立ちはだかる重要人物を演じる。

 

横田くん演じる少年時代の同級生、好き。自転車を引くお父さんも魅力的だった。お父さんとても印象に残っている。おじいちゃん先生は面白くてかわいくて、こういう先生いる!って思った。体ごと変化していて、俳優横田くんのいろんな表情が観れてとても素敵だった。御学友はさすがだった。目を見開いて表情が大きく変わるところが人間って感じで素敵だった。エゴンはとても難しい立ち位置だと思ったのだけど、いろいろな感情を持っているんだろうなと感じるけど、静かな佇まいでそこからエゴンって人がどういうひとなのか想像が広がって。すごく魅力的だった。

どの人物たちも鮮やかに演じていて。こんなに年齢も役柄も全然違ったいくつもの役たちを楽しんでいるのが伝わってきて。楽しかった。素敵だった。

 

警察、刑事の人と家政婦フバレフさんのシーン。

 

アグネスがお花を持ってふふっと一瞬笑顔になるシーン。

 

エゴンとキュアマン二人が並んで話すシーン。

 

 

アントワネットとキュアマンふたりがすれ違うところほんとうにダイナミックでドラマティックだった。あそこのあの空気の動き方すごかった。

 


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撮影:奥田隼平

 

アントワネットは、伝記を書いているのがキュアマンだから、当たり前だけどキュアマンから見たアントワネットの姿であるわけで。

 

アントワネットはキュアマンのことを愛しているように私には見えた。だから、最後の決断はやっぱり彼を愛してるからこそなものに感じた。取り残されたキュアマンにスポットライトは当たるけれど。彼女はどんな気持ちで部屋を後にしたのだろう。そこにある愛にキュアマンはいつか気がつくのだろうか。物語はここで終わっているけれど、数年後かにまた二人が出会ったところからやり直している未来はあるのかもしれないし、目的が達成されたことでもう遡ってのやり直しは出来ないのかもしれない。たぶん後者なんだろう。

 

未来はわからない。それはとてもこわいことでもあるけれど、わからないからこそ進んで行けるのかもしれないと思った。キュアマンは、あのラストからどんな未来を歩むのだろう。きっと、やり直したあの時間はキュアマンにとってかけがえのない時間になると思う。そうだったらいいな。

 

お客さんが目の前にいて、舞台が進む。その凄さと奇跡と喜びと戻らない事実ともしもの世界を体感するキュアマンを必死なキュアマンを必死に追っている自分がいた。いつの間にか、がんばれって心の中で応援していた。

 

 

伴走するゲームマスター綾田さんが、やり直す中央の丸い舞台の中をじっと見つめるその集中力がお客さんを引っ張っていたように感じた。最後まで、見つめ続ける彼は伴走者であり、言葉をかける者であり、お客さんと同じ見つめる者であり。彼はまた誰かのやり直す場面に立ち会い、伴走しているのだろうか。それとも、もう一人の自分なのだろうか。未来の自分なのだろうか。

 

 


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撮影:奥田隼平

 

天井から下がる中央の丸いライトが、まるで満月の月のようだった。いつも空から見ている。

 

 

2022.6.9〜2022.6.12 シアタートラムにて

作:マックス・フリッシュ

翻訳:松鵜功記

構成・演出:矢野靖人

出演:

キュアマン:沖渡崇史

アントワネット:川渕優子

女性アシスタント:三橋麻子

男性アシスタント:横田雄平

演出家・ゲームマスター:綾田將一

 

 

 

☆追記☆

 

2022年6月にあった公演日から、この感想ブログをアップするまでにこんなに時間がたってしまった。それはとても個人的な理由で。私が病気のためほぼ寝たきりの療養生活に入ってから、劇中キュアマンがやり直したのと同じ年数でちょうど7年だったからだ。

 

何度もやり直すキュアマンの姿は、自分にも存在していたかもしれない日々を想像させて。どうしたって7年ってそれなりに長くて。私は眠りの中に閉じ込められたような毎日の中で、薄い意識は眠りの中から出ることが出来なくて。現実では私はそういう毎日を生きるしかなかったけれど、病気の原因がもっともっと早くわかっていたら違う未来もあったのかもしれない。劇中、そんなことを考えた。でも現実の私は人生をやり直すことは出来なくて。否応がなく前に進み続け体は年月を重ねるしかない。この公演はそういう自分の人生に対して、フィードバックがかかる舞台だったから。

 

7年間という偶然同じ年数だっただけで、余計感じてしまっている部分があって。辛いという言葉ではちょっと違うのだけど。あまりの時間というものの大きな大きな現実を目の当たりにして、打ち拉がれた。

観終わったあと溢れる感想を書いてはいたけど、楽しかった部分だけを取り出して書くことが出来なくて最後まで書けなかった。今やっとこの記事を更新できたのは、たぶん時間がたって少し離れて見つめられるようになったからというのと。去年のこの時期に比べたら、日進月歩ででこぼこでほんとうに少しずつ体調が上向きになってきているからだと思う。これは素直に、素直に喜ぼう。

 

 
私にとってのパラレルワールド

この公演を観る前から私は毎日毎日眠り続ける日々の中で、パラレルワールドについて考えることがあって。私のパラレルワールドの使い方は、どこかの別次元の世界で、元気に笑って人と一緒に関わって元気に生きてる自分がいるって想像すると、なんだか安心した気持ちになって。そうか、別次元の世界で元気にやっているなら、私は私の世界で生きるのをがんばるしかないなって思えて。元気な自分がパラレルワールドで生きてるって想像すると自分の取り返せない時間とか、もつれた感情たちが報われた気持ちになって。ちょっとすっきりした気持ちになって、自然に今をがんばろうって思えた。そうやってパラレルワールドを私なりに使っていたから。

この公演は、そのパラレルワールドを目の前で目撃して観ている…!って思って。自分と重なる部分が多かったのかもしれない。

 

沖渡さん演じるキュアマンが宙に光に両手を伸ばして、天に届かんとばかりに両手を差し出していたあの姿をたぶん忘れないと思う。あのキュアマンの姿は、生きるっていうのは、そういうことだと思うから。