監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ウィリアム・ブロイルズ・ジュニア
原題:Cast Away
難船した。漂流者。世間から見捨てられたの意。この映画では両方の意味が含まれていた。
2000年公開。
空路や地上で物流サービスを提供する世界最大手の会社であるフェデックス社に勤めるチャック・ノーランド(トム・ハンクス)は、世界中を飛び回る。各地の物流倉庫に出向いては1分1秒でも遅れるなとタイマーを手に、いかに効率良く早く合理的に荷物を振り分けるかを指導していくのが彼の仕事だった。秒刻みでタイマーは動き、荷物を人を管理していくチャック。
季節はクリスマス。街はイルミネーションに彩られ、送り合うクリスマスプレゼントで倉庫は大忙しである。そんなチャックには恋人ケリー・フレアーズ(ヘレン・ハント)がおり、お互いに忙しい中でも手帳を見せ合いながら二人で会える時間をなんとか見つけ出し、長年交際を続けてきた。しかし、チャックは移動中の飛行機が事故に遭い、ひとり無人島へと漂流する。
秒刻みであらゆるものを管理してきて、また人間はそれが出来ると何も疑わずに生きてきた彼のこれまでの生活とは一転し、人間も時間も食べ物、水さえもない状況に立たされる。
※記事に結末を含みます。
トム・ハンクス演じるチャックが魅力的で、嘘くささが微塵もなくて現代から突然無人島に放り出されたというのがとにかくリアルですごい!
いろんな表情、出立ちからチャックの感情がダイレクトに伝わってきて。カニを捕まえようとしたり、ヤシの木を割ろうとしたりとりあえずいろいろチャレンジしてやってみるチャックに笑ってしまうような面白さがあったり、だけど無人島にいる心細さみたいなものはあって。もしも自分だったらひとりで生きていけるかな、とか考えた。
まず水がないから喉が乾き、窮地はすぐにやってくる。その中でヤシの実から水分を確保したり、魚を捕まえようとしてみたり、なんとか生きて抜くために知恵を絞る。火をおこすことに成功したときの物凄い達成感と全知全能の神は我だと言わんばかりの体の中から沸き起こる喜びの笑いのシーンは特にすごかった!人間の生きる力と生命力を見たようなトム・ハンクスの演技がすごい迫力だった。
そして月日は流れ無人島生活が4年を迎える頃には…岩陰からひょっこりと顔を出したチャックの姿はすっかり痩せこけ全身は毛で覆われ目の色は光を失っていて。人間というよりまるで野生の鹿とか熊のような動物のようになっていた。食料を探す、天敵から身を守る。そういうシンプルに生き抜くことだけへの意識までそれがめちゃくちゃリアルで。
だけど、どんなに野生動物のようになってもチャックは人間なんだというのがわかるシーンがあって。
洞窟の壁に描かれた恋人の顔の絵。しかも自然の材料から色を塗っていてカラフルなのだ。日数を数え季節を知る壁に刻まれたいくつもの線。自分の心の内を吐露するバレーボールのウィルソンという相棒の存在。ウィルソンはチャックを叱咤激励する。羽根のペイントがされた荷物。羽根のイラストに何かを感じ、この荷物だけは開けずに届けようとずっと大事に取っておいたのだ。
一度は絶望と諦めから命を絶とうとしたチャックは自分の意思で生きることを選び、何度も何度も大波に阻まれながらも、あきらめず冷静に観察を続け、対策を施しながら島を出るチャンスを待つ。
私はいつの間にか、無人島にはいないけれど精神的な部分でチャックの姿に自分の長い療養生活とを重ねて見ていました。
大波を越えて島を出られたあとに訪れる相棒ウィルソンとの別れ。ウィルソンは、チャックと同じ飛行機で輸送されるはずだった荷物のひとつで、クリスマスプレゼントにと贈られたバレーボールで。あるきっかけからそのバレーボールに顔のようなものを見たチャックは、バレーボールに話しかけるようになる。そしてウィルソンと呼ぶようになり、チャックにとってただのバレーボールではなく無人島での4年間で唯一、自分の心の内を語り合える、自分を激励してくれる大切な大切な相棒のような存在になっていくのです。
そんなウィルソンとの別れ。
「ウィルソン〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
と叫び海原の筏の上でぽつんと一人声を上げて泣くチャック。「助けてあげられなくてごめん、ウィルソン」と慟哭するトム・ハンクスがすごい。無人島の生活の中でたった一人傍にいて語り合い叱咤激励してくれた友を失くした悲しみが痛いほど伝わってきて、既に感情移入している私は一緒になってウィルソンー!!と胸が苦しくなりました。
そしてなんと幸いにも偶然通りかかった船に発見され、救助されてチャックは無事4年の時を経て人間社会に帰るのですが。有り余り残される大量の食料。ボタンひとつで火が着くチャッカマン。無人島での暮らしとのあまりの違いに人間社会にとまどいを隠せないチャック。これがまたリアルで戸惑うチャックの心情がトムの表情から伝わってきて、すごい。
そして無人島でずっと心の支えにしていた恋人ケリーとの再会と別れ。「僕は二度彼女とさよならした」と語るチャックが人間の友達に心情を吐露する場面。
「でも彼女はあの島でずっと僕のそばにいてくれた」と彼女に心からの感謝の気持ちを話し涙を浮かべるチャック。
どこかでずっとチャックが生きていると信じていたケリー。だけど、残酷にも時は確実に流れていて。こんなにお互いがお互いのことを思い合っているのに…
大雨が降る深夜。チャックとケリーは再会するんだけど、それはさよならとありがとうを伝える時間となって。二人の別れ。こんなにも愛し合って思い合っているのに。もう一度会えたこと喜ぶ、愛を伝えるでもそれは別れのキスで。相手のことを本当に考えているからこそ、静かにケリーを家に帰るよう促すチャック。こんなにこんなに悲しい愛の別れがあるかって私の胸はぐぅっと苦しくなりました。このシーンはとても映画的だなあと思いました。一番ドラマチックでこの映画の実は芯だなと私は感じました。
そしてそしてそれからチャックは、ケリーが残して置いてくれた車に乗って旅に出る様子。お店に立ち寄り何かを購入したようで。その腕の中には、NEWウィルソンが…!!新しいウィルソンを優しく助手席へと乗せたチャックは出発する。
どこまでも広く続く道。先が見えないまっすぐで広い十字路の真ん中に立つチャック。これからどう生きようか、どちらへ行こうかと佇む後ろ姿。広い十字路はどこへでも行けるよと言ってるみたいに希望を感じさせて吹く風が心地よい。
風に吹かれ立っているトムがとっても素敵で。言葉では何も語らないんだけど、痩せたトムの背中から表情から伝わってくるものがあって。それがなんとも言えず、良いんだなあ。未来への新しい出会いの予感を感じさせるラストでした。
最後まで見終わって、私が思ったことは。人間の本来持っているであろう生命力というか、生きる力をもっと信じてもいいのかもしれないと思いました。生命力と、どんなんでもいいから生きる意志を持ち続けること。
どんな状況でも息することを続けていたら、風向きが変わる瞬間は絶対やってくるっていうか。動けないときは、動けないなりにとなんとか息をしてればチャンスはやってくるから。そしたら最終的には前に進んでいくから、息をするのやめないのがそれが人生なのかもしれないと感じました。
…なんてすごいなんて魅力的な俳優なんだ。
ああ、トム・ハンクス!